起源の反復の物語 アクアマン

サメをはじめ海の生物すべてを従えて戦うことができる海底王国アトランティスの末裔アクアマン(ジェイソン・モモア)は、人間として育てられた。地上を超える未知の文明をもったアトランティス帝国は、人類の支配を狙い侵略を始める。地上と海、どちらを守るのか選択を迫られたアクアマンは……。

アクアマン | 映画-Movie Walker

(映画『アクアマン』オフィシャルサイト

アクアマン
映画『アクアマン』特別映像5分【HD】2019年2月8日(金)公開 - YouTube

劇中でアトランティスの歴史が語られる。かつては、それは地上に存在しテクノロジーの発達によって繁栄を極めていたが、トライデントというアトランティスの伝説の武器から無限のエネルギーを抽出しようとしたところで、その抽出装置が暴走して陸地は崩壊しアトランティスは海の底に沈んでしまう。アトランティスの人々は、もともとの発達したテクノロジーをもとに海中に適応した。人々は様々な形で適応し、彼らは七つの種類、七つの国に分かれてそれぞれが統治している。アメコミの映画でいうと、最近では『ブラック・パンサー』(暴力への信頼と英雄殺し ブラックパンサー | kitlog)や『マイティ・ソー バトルロイヤル』(戦争の記憶と民主主義者の限界としてのTownship マイティ・ソー バトルロイヤル | kitlog)が劇中で歴史を扱っていた。アメコミでなければ『リメンバー・ミー』(家族を抑圧する「歴史」からの解放 リメンバー・ミー | kitlog)が冒頭で主人公の現在までの歴史を描いている。『ブラック・パンサー』では歴史は敵側の人物の期待やあこがれの対象として、あるいは動機の純粋さを基礎づけるものとして機能していた。そのような歴史を背負うことが敵の魅力の大半を占めている。『マイティ・ソー バトルロイヤル』では、歴史は書き換えられており、本来書かれているはずだった歴史が抹消されて別のものになっていた。映画では、その書かれなかった歴史の側の人物が復讐にやってくるという物語になっている。『リメンバー・ミー』でも歴史は書き換えられており、主人公が正しい歴史(父)を求めて歴史を書き換えた人物と対決しに行く。このように歴史との関わり方は様々である。

『アクアマン』では三つの歴史が語られる。一つ目は上のアトランティスの大まかな歴史だ。そこでは国が海中に沈んで、そこで人々が適応した経緯が描かれている。二つ目はアトランティスの政略結婚から逃げてきた王女アトランナ(ニコール・キッドマン)が幼少期のアーサー、後のアクアマンに語る歴史だ。アトランナはアトランティスから逃げて、ある灯台守の男トム・カリー(テムエラ・モリソン)と出会い、二人に子供ができる。それがアーサーだ。彼女はアーサーにトライデントという伝説の武器の歴史とそれを持つ真の王が現れることを言い聞かせる。トライデントを持った真の王がが七つの海を統べ平和をもたらすのだといい、それをアーサーという自分の息子とその名前に託した。そして三つ目はアトランティスと関係がない親子の歴史だ。ブラックマンタ(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)は海賊で父から特別なナイフを受け取る。その父が言うには、祖父は第二次大戦で活躍したのだが今は忘れられてしまった。そして海賊をはじめたのだという。このナイフはその祖父から父に受け継がれたもので、その貴重なナイフを今ここでブラックマンタに託すのだという。

これらの三つの歴史と映画のその後の展開から見て、これらの歴史の示していることを総合できるように思われる。まず、アトランティスの歴史について、地上にいた人々が海中に沈んでその後適応したとはどういうことだろうか。海での適応はアトランティス人が急に肺呼吸からエラ呼吸に変わったくらいの変化がなければ不可能だろう。何らかの突然変異がなければそのようなことは不可能である。それはトライデントの力によってもたらされたとされているが本当なのだろうか。アクアマンは物語の終盤そのトライデントを手に入れるが、それは強力であるにしても、それによって人々の生態を変えてしまうほどの特別な力を見せるということはなかった。ここで使われている適応という言葉の曖昧さが何かを隠しているのではないか。それは海底にいる人々が語っている歴史である。海中での困難をトライデントの力で克服したとされているが、本当はアトランナの息子のアーサーがそうであったように、他の種族と交配したために海で生き延びる能力を得たのではないだろうか。アーサーにトライデントを得る資格があったのはそのためだろうと思われる。アトランナは自分の行動によって歴史を語っている。そして歴史を語ることでアーサーの未来も示しているのだ。アトランティスの海底都市の起源に異種交配があった。そしてそれを反復したためにアーサーは王の資格を得た。同時にアーサーとは父が違う弟・オーム(パトリック・ウィルソン)にとっては純血を守ることが目標であり、地上と交わらないために地上を攻撃する理由を自作自演しなければならないし、アトランティスがテクノロジーで生き延びたという歴史を継がなければならない。地上人による海洋汚染や水生生物の乱獲などといった理由も語られるが、まもなく語られなくなっていく。オームは母のアトランナが地上に逃げたために海溝国へ追放されたことを母が裏切ったためといって非難するが、そのようなことを裏切りと判断する制度がおかしいとは言わない。王家の者は地上でも人間のように呼吸ができて、いつでも地上に行けるようにできているのに。

イギリスをヨーロッパの他の諸国と非常に異なったものにしたものは、議会やその自由、その公開性や陪審制などであるよりも、何か特殊で、そしてもっと効果的なものであった。イギリスは、カスト制度を悪化させることなく、有効に打破している唯一の国であった。イギリスでは、貴族も平民も一緒になって同じ公務に従事したし、同じ職業についたのである。そして、イギリスでとりわけ際立っているのは、貴族と平民が通婚したことである。そこではすでに、最大の領主の娘も屈辱を感じないで新しい人間(ブルジョア)と結婚することができたのである。

貴族がある民族においてつくっているカスト・理念・習性・障壁などが決定的に絶滅されているかどうかを知るには、そこでの結婚を考察してみればよい。その結婚を考察してみれば、諸君に欠けている決定的性質がわかるであろう。フランスでは、民主主義への出発後六十年もたった今日でさえ、そこで貴族と平民の通婚という事実をさがしても、しばしば無駄である。(p226,227)

アンシャンレジームと革命』A.de.トクヴィル

アクアマン
映画『アクアマン』特別映像5分【HD】2019年2月8日(金)公開 - YouTube

三番目の歴史、自分の家族の海賊の歴史を語ったブラックマンタの父はアクアマンに対抗するが、自業自得で魚雷の下敷きになり、潜水艦が浸水する中で身動きが取れず死んでしまう。これは序盤のアクアマンが成人としてあらわれる場面での一幕で、ブラックマンタは海賊でありながらアクアマンに「父を助けてくれ」と懇願する。しかし、アクアマンは海賊は人殺しだろう、海に助けてもらえといって見捨て、他のものの救助に向かう。ブラックマンタの父は息子が助けようとしてくれているが、それはかなわず、水が迫ってきているのを見て、自ら爆弾のスイッチを押し、息子に強制的にここから離れさせる。ブラックマンタは仕方なく一人ではしごを登り、はしごの下で爆弾が爆発する。ここは見ていて少し唐突な感じがしたが、ここで否定されているのは海賊一家という代々受け継がれてきたという存在のあり方であろう。『アクアマン』の中で重視されているのは直線的な継承ではなくて、異種交配のような交差である。ブラックマンタはおそらくこの映画の中で最もシリアスなキャラクターだが、彼はもしかしたらDC作品のシリアスさを継承しているのかもしれない。彼がシチリアのような明るい場所に適さないのはそのためで、彼は「明るさ」と交配したアクアマンに勝てないのだ。

反復の物語は繰り返されて、オームと婚約していたメラはアトランナと同じように逃亡し、アーサーとともに「ジェームズ・ボンド」や「インディ・ジョーンズ」の映画のような旅路のなかで地上の素晴らしさを経験し、トライデントの伝説を追っていく。それはおそらく、アーサーの父と母の地上での生活を反復し縮約したようなものだ。しかし、彼らは父や母のように王国に捕まらない。アーサーが王になったからだ。同時に自由になったアトランナはトムとの約束を守りに行く。そこで、映画の初めの灯台での出会いを改めて反復するのだ。

一方では秘められた意図に基づく改竄、削除、拡大解釈という加工が露骨に原文に対してなされ、意味が逆になってしまっている。他方では、整合性を持とうが相殺し合って意味を失おうがおかまいなしに、あったがままのすべてを保存せんとするおおらかな敬虔の念が原文にはっきりと認められる。それゆえ、原点のほとんどすべての箇所に明白な脱落、煩わしい反復、はっきりした矛盾が現れているのだが、これらは、伝えたくなかった事柄の存在をわれわれに仄めかす徴候にほかならない。原点の歪曲には殺人に似たものがある。難しいのは殺人を行うことでなく、犯行の痕跡を消し去ることなのだ。(p77)

モーセと一神教』フロイト

アクアマン
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9/10/2020
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