アンチ急成長の空気の中で ドラゴンボール超 ブロリー

『力の大会』後の平和な地球で、宇宙にはまだまだ見たことがない強者がいると知った悟空(声:野沢雅子)は、さらなる高みを目指して修行に明け暮れていた。そんなある日、悟空とベジータ(堀川りょう)の前に、見たことがないサイヤ人ブロリー(島田敏)が現れる。惑星ベジータ消滅とともに全滅したはずのサイヤ人がなぜ地球にやって来たのか? 地獄から再び舞い戻ったフリーザ(中尾隆聖)も巻き込み、まったく違う運命をたどって出会った3人のサイヤ人は、壮絶な闘いへ……。

ドラゴンボール超 ブロリー | 映画-Movie Walker

ドラゴンボール超 ブロリー 公式

ドラゴンボール超 ブロリー
(『ドラゴンボール超 ブロリー』予告 - YouTube

ブルマの集めていた六つのドラゴンボールがフリーザの一味に盗まれた。それを取り返すために悟空とベジータとブルマは最後のドラゴンボールの在り処である氷河地帯へ向かう。氷河での戦いといえば、『ドラゴンボールZ この世で一番強いヤツ』を思い出すが、このときには悟空が氷河の海に落ちて「寒ぃー」「冷てぇー」みたいな反応があるのだけど、今作は氷河で寒いとはいえ最初だけでその後はすぐに防寒具を脱いでも大丈夫というか、そこが氷河であることが感じられなくなってくる。同じように、ブロリーとの戦闘でその氷河が一瞬で蒸発してマグマが吹き出してくるのだけど、それについても熱いとかいう反応が全くない。そのせいか、地球で戦っているというよりももっと抽象的に戦っているという感じさえする。実際、戦闘中に何か次元の超えた空間にいったような表現がなされることもそのことを裏付けているかもしれない。

ではその戦いが抽象的な戦いだとしたら、悟空とベジータは何と戦っているのだろうか。それはおそらく「急成長」だろう。「急成長」といえば『ドラゴンボールZ 地球まるごと超決戦』で、食べただけで戦闘力が上昇する「神精樹」の実が思い浮かぶ。その木は地球を養分としてジャックと豆の木のようにぐんぐん育ち、地球の他の生物を枯らしていく。それはやがて赤い実をつけ、食べたもののパワーを上げる。孫悟空たちは地球を守るために、その実を食べてパワーアップしていく敵と対抗することになる。この映画では、このように「急成長」が地球の養分を吸ったものだというロジックがあった。しかし、今作のブロリーにはそのようなロジックはない。ただ急成長して、その急成長こそが脅威として描かれている。彼は生まれたときから、天才と呼ばれているベジータ王の息子を上回っており、そのために潜在的な脅威として惑星ベジータを追放される。悟空とベジータが氷河でブロリーと対決したときも、最初ブロリーはベジータの通常状態と互角だったが徐々にそれを超えていき、ベジータは仕方なく超サイヤ人にならざるを得なくなる。そこで一瞬強さでリードするのだが、またすぐに追いついてくる。そこでまた次の段階に変身するのだが、それでもブロリーは追いついて追い越してくる。

『ドラゴンボール超 ブロリー』予告
(『ドラゴンボール超 ブロリー』予告 - YouTube

最初にブルマのドラゴンボールがフリーザ一味に盗まれたと書いたが、ドラゴンボールを集めて神龍にする願い事はギャグとして描かれている。ブルマは五歳若返りたいのだという。悟空はもっと若返ればいいじゃねえかというのだが、ブルマは急に若返るとあの人整形かもと疑われるかもしれないとして、他人の目を気にしている。フリーザは最終形態のままで身長を五センチ伸ばしたいのだという。これも急に身長が伸びるとおかしく見られるからだというのだ。今までドラゴンボールの願い事で他人の目を気にしているという描写はあっただろうか。ブルマもフリーザもネタでつまり嘘で言っているのではなく本気でそういっているためにこのシーンがギャグになっている。彼らはそんなキャラではないからだ。つまり、彼らはドラゴンボールで願いを叶えられるのに、他人の目を気にしてちょっとした変化しかしないようにしている。ここまで来ると本当にドラゴンボールの否定であるように見える。

『ドラゴンボール超 ブロリー』予告
(『ドラゴンボール超 ブロリー』予告 - YouTube
なぜそのような価値観が蔓延しているかは謎だが、そのような保守的な成長をブロリーは破壊して短時間で何年分も成長する。彼は成長するから戦っているし、戦っているから成長する。ブロリーとベジータとの因縁はほとんど薄くなっているし、途中にはベジータも見失ってフリーザと戦っている。戦う歴史的な理由や感情的な理由は消えかかっているが、彼は戦いの中で成長を続けている。彼らの戦いの中にあるのは成長の概念だけだ。そしてブロリーはいつの間にか誰よりも強くなっている。考えてみれば、ドラゴンボールにおけるサイヤ人の存在はいつもブロリーのようではなかったか。「急成長」とは界王拳や超サイヤ人を見ればわかるようにサイヤ人の特徴そのものである。彼らはいつの間にか誰よりも強くなっている。ナメック星ではサイヤ人は瀕死の状態から回復したときに能力がグンと上昇する性質を利用するために、ベジータは死にかけてみせた。ブロリーはそんな急成長するサイヤ人を認めろといって画面に現れてくるのだ。悟空とベジータはブロリーに敵わないと知って、フュージョンを試み一つになる。それでブロリーを圧倒できるようになるが、最後のところであることが起こってブロリーは戦線を離脱することになる。戦いのあとで、孫悟空はブロリーに会いに行く。そこで彼は自分の名を名乗ることになるのだが、彼は孫悟空であると同時にカカロットであることも認める。彼は自分がカカロットであることを認めたと同時にサイヤ人も認め、ブロリーも認めたのだ。



クオリティについて言うと、この映画はドラゴンボールZの劇場版のように映画の絵がそのまま漫画にできるほどでないのが残念なように思う。戦闘シーンとそれ以外の線の質が違いすぎていると思う。昔の劇場版は六十分前後だったからクオリティを保てたのかもしれませんが。

9/10/2020
更新

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