5000年前の呪いは今も続くか ザ・マミー 呪われた砂漠の王女
灼熱の太陽が降り注ぐ現代の中東で、米軍関係者のニック(トム・クルーズ)と考古学者のジェニー(アナベル・ウォーリス)は謎の地下空洞に隠された巨大な棺を発見。調査のため棺をイギリスに輸送するが、想定外の事態により飛行機はロンドン郊外へ墜落。即死であったはずのニックはなぜか無傷のまま遺体安置所で目を覚まし、脳裏に浮かぶ美しい女性の言葉に導かれるように、棺の行方を捜す。
その棺に眠っていたのは、5000年前にファラオから裏切られ、復讐のために邪悪なモンスターと化すが、封印された古代エジプト王女アマネットであった。そして彼女は、ついに永い眠りから目覚めようとしていた―。
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ニックは米軍関係者でありながら金に目がない男。戦闘地域に赴いては「貴重な古代遺跡の解放者」と称して貴重な遺物を横取りし、ブラックマーケットで売りさばいているらしい。彼は相棒のヴェイル(ジェイク・ジョンソン)とともに古代のお宝の地図が指し示す場所を探している。そのポイントは反乱軍の拠点だった。ヴェイルは慎重に行こうというのだが、ニックはその忠告を聞こうとしない。もしも拠点に爆撃があれば、お宝が台無しになってしまう。その前にお宝を拝んでおこうというわけだ。そうして考えなしに二人は大勢の反乱軍のいる拠点に突入する。が、彼ら二人ではどうしようもない数である。ヴェイルは「やめとけばよかったんだ」などと延々ニックに愚痴りながら、一方のニックは何を考えているかわからないが、とにかく考えているんだといいながら二人で敵の攻撃から身を守り逃げるので精一杯な様子だ。そしてニックは敵に追いつめられ、民家の屋上で包囲されたところでヴェイルに白状する。「俺達はここで死ぬ」と、つまり何も考えていなかったのだ。彼はとても軽率で考え無しな人物ということが示される。
軽率だからといっていいのか好奇心が旺盛と言っていいのかわからないが、その拠点の地下で発見した墓のような牢屋の仕掛けを考古学者のジェニーに相談もなく銃で破壊し何かの封印を解いてしまう。ニックは前日にジェニーのライフワークとしていた研究のための地図を盗んでいた上に、勝手に遺跡の仕掛けを動かして破壊してしまうところだった。ジェニーはニックに不信感を抱いているが、その遺跡の棺桶を運んでいた飛行機が事故にあった時に助けられて印象を変える。ここで、ニックは良いやつなのか悪いやつなのかということに関心がうつる。もともと軍関係者でありながら、遺跡泥棒であるという二面性があるのだけど、どちらの特徴もなぜか弱い。軍人の能力に秀でていると分る描写はそれほどないし、泥棒としても印象が薄い。この映画で彼は三度盗む。最初はジェニーの地図、二度目は飛行機内の軍人の銃、三度目は王女アマネット(ソフィア・ブテラ)が握っていたセト神の短剣。トレジャーハンターはスリの達人ではないのかもしれないが、三度目の盗みに説得力をもたせるなら最初から盗人ということを全面に出していたほうが良かったのかもしれない。ニックは最後ジェニーをよみがえらせるために悪魔に魂を売った。その彼は悪だろうか善だろうかとなるのだけど、その二面性(軍人、盗人も含めて)ジキルとハイドというキャラクターと重なっていて、お互いの二面性に何か違いを持たせるということもないので、それぞれのキャラクター同士に深みをもたらすということにもなっていないと思う。あと、分からないのはニックがゾンビになったヴェイルに余計に一発発砲して三発撃ったことと、教会で王女から逃げる時にジェニーを置いていこうとしたこと。これはギャグなのか、ギャグにしても何かそうする理由みたいのがないと笑えない気がする(こいつはこういうやつだからみたいな、ミニオンだから前を見て歩いてなくても仕方がないとか)。
ニックは遺跡の仕掛けを解いたことがきっかけで5000年前(5000年て書いてあるところと2000年て書いてあるところがあるのは何なのか)の呪われた王女に選ばれる。この王女アマネットは呪われているとはいえ、リングの貞子や呪怨の伽椰子のようにコミュニケーションが不可能な存在ではない。「お前たちの言語は簡単だな」といって英語をあっさり覚えてしまう。呪いによって何らかのプログラムを強制されている(例えば人類を滅ぼすまで活動をやめないとか)というわけではなく何らかの意志を感じさせる。それにもかかわらず、彼女が5000年前に王に裏切られた恨みを現代ではらす理由がなにかあるだろうか。現代によみがえって5000年前と同じように誰かに裏切られたとかいうなら、それがきっかけで力を使って人類を支配するというのはわかる。だが、彼女が現代でセト神の儀式を邪魔されずにやり遂げたとしてそのあとに彼女にどんな選択肢が待っているのかよくわからない。5000年前の彼女のことを知っている人間は誰もいないし、彼女も現代に生きている人間について誰も知らない。そんな世界を支配して何になるだろうかという感じがしてならない。彼女が神なのであれば、そんなことは考えなくていいのかもしれない。彼女は神だろうか。
9/10/2020
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