動物たちの復興ソング SING/シング
動物だけが暮らすどこか人間世界と似た世界。かつては栄えていたにも関わらず、今や客足は途絶え、取り壊し寸前の劇場支配人であるコアラのバスター・ムーン(声:マシュー・マコノヒー)。そんな彼は根っからの楽天家で自分の劇場を何よりも愛し、劇場を守るためなら何でもしようと決心、最後のチャンスとして世界最高の歌のオーディションを開催する。当日、会場にやって来たのは個性溢れる動物たち。貪欲で高慢な自己チューのハツカネズミのマイク(声:セス・マクファーレン)、ステージに上がることに恐怖心を持つ内気なティーンエイジャー、象のミーナ(声:トリー・ケリー)、25匹の子ブタたちの育児に追われる主婦のロジータ(声:リース・ウィザースプーン)、ギャングファミリーを抜け出し歌手を夢見るゴリラのジョニー(声:タロン・エガートン)、横柄な彼氏を捨ててソロになるべきか葛藤するパンクロッカー、ヤマアラシのアッシュ(声:スカーレット・ヨハンソン)、常にパーティー気分の陽気なブタ、グンター(声:ニック・クロール)……。人生を変えるチャンスを掴むため、5名の候補枠をめぐり動物たちが熱唱、それぞれの歌を披露する……。
SING/シング | 映画-Movie Walker
(『SING/シング』吹替版特別予告 90秒 - YouTube) |
(『エズラ記』第二書の)第六章に宇宙創造の過程の大要が記されているが、そこに次のような言葉がある。
「第三日。神は水を大地の七分の一のところに集めよと命じたもうた。そして神は残りの七分の六を乾かし、その一部を耕作し、のちの役に立てるためにに保留したもうた。」
「第五日。水を集めた七分の一に向かって神は言いたもうた、けものと鳥と魚を生めと。そしてその通りになった。」
(中略)
知識の増大に役立ちそうないろいろな問題とともに、この問題を研究した学者の中に、枢機卿ピエール・ダイがいた。われわれがすでにみたように、この偉大な人物は、聖アウグスティヌスと同じく対蹠面の存在は否定したが、地球が球形であることは固く信じていた。そしてその見地から『エズラ書』の叙述を解釈した彼は、地表のわずか七分の一だけが水で被われているからには、ヨーロッパの西海岸とアジアの東海岸との間にある太洋はさして広いはずはないと信じた。
(中略)
この点を、彼は偉大な著述『宇宙像』のなかで強調した。同署は、折しもコロンブスが西方への航海を綿密に研究していたときに出版されたために、それがコロンブスの推論の上に大きな影響を及ぼしたことは当然である。セビリアの図書館の貴重書の中でも、コロンブス自身が註を入れた同書の写本ほど興味あるものはない。マルコ・ポーロが到達したアジアのジパンゴまでの太洋横断航路は短いということをコロンブスに確信させたのは、実にこの写本であった。天啓と思われていた聖句にもとづくこの誤りがなかったならば、コロンブスは彼の航海に必要な勇気をうることはできなかったであろう。(p35,36)
『科学と宗教との闘争』ホワイト
歌のコンテストの賞金の1000ドルを10万ドルに間違えるということがなかったならば、このストーリーはできなかったのだろう。1000ドルのままならゴリラのジョニーは泥棒をやってたほうがいいと思ったかもしれないし、象のミーアが勇気をもつような自分からの気持ちや周りの後押しはなかっただろう。人を騙すことは悪いことだが、それでも…ということはありうる。それは(90年代からの亡霊 シン・ゴジラに関するメモ|kitlog)に書いたように、まったくのリアリズム、真実だけの世界では人は動くことができないからだ。
この物語は見た目上は群像劇である。コアラのムーンの劇場があって、そこにそれぞれの人生を抱えた動物たちが集まってくる。彼らはそれぞれ自分の思いを乗せて歌を歌うだろう。それらは一見バラバラな歌を歌っているようにみえるかもしれない。しかし言葉が一つの意味だけを持つことがないように、その歌は彼らの物語であると同時にそれらを合わせたものがムーンの物語となっている。
ムーンは子供の頃に父親に連れて行ってもらった劇場に感動し、彼も劇場を運営することを夢見る。父親は車の洗車をすることで資金を稼ぎ劇場を買いムーンに与えた。しかし劇場を与えられただけの彼は劇場でヒットするような企画をつくれず運営が困難になっていた。そこで一発逆転をねらって賞金1000ドルで歌のコンテストを開催し劇場を盛り上げることを企画する。1000ドルを10万ドルと間違えたことで予想以上にオーディションに人が集まる。その中からこれはという人材を選んでコンテストを行うことにするが、賞金が足りない。そこでかつてのスターで大金持ちのナナ(ジェニファー・ソーンダース)にお金を貸してくれないかと持ちかける。ナナはムーンが子供の頃に劇場で観て感動した大スターであり、彼女を納得させる舞台を作り上げるため劇場を改造する。舞台の後ろのガラスの水槽をつくりそこに発光イカを泳がせて自然の電飾をつくるというものだ。それをナナに見てもらおうという時に、あるアクシデントで水槽にヒビが入り、水槽から大量の水が溢れ出してしまう。津波と見紛うほどの水は内部から劇場を飲み込み劇場をほとんど破壊してしまう。ムーンが父親からもらった劇場はほとんど空き地のようになってしまった。
Baby, I'm just gonna shake, shake, shake, shake, shake
I shake it off, I shake it off
Heartbreakers gonna break, break, break, break, break
『Shake It Off』 Taylor Swift
ムーンは恋人も同然だった劇場を失い失意にふけり引きこもる。それでもムーンが父親から言われて、象のミーナを勇気づけるために言った言葉をミーナが信じていたと言われ自分が「fool(Audition ラ・ラ・ランド|kitlog)」であることを思い出す。
Don't you know I'm still standing better than I ever did
Looking like a true survivor, feeling like a little kid
I'm still standing after all this time
Picking up the pieces of my life without you on my mind
I'm still standing, yeah, yeah, yeah
I'm still standing, yeah, yeah, yeah
『I'm still standing』 Elton John
そして壊れてしまった劇場とは一旦お別れをして、また新しい劇場のための資金稼ぎに父親がかつてやっていた車の洗車をして一からやり直すことを決意する。
This is my kiss goodbye
You can stand alone and watch me fly
Cause nothing's keeping me down
I'm gonna let it all up
Come on and say right now, right now, right now
This is my big hello
Cause I'm here and never letting go
I can finally see, it's not just a dream
When you set it all free, all free, all free
『Set It All Free』Ash(Scarlett Johansson.)
しかし、洗車の途中、劇場の方から歌が聞こえる。ムーンはそちらへ走り出し劇場跡に行ってみるとミーナが一人美しい声で歌っていた。ムーンはミーナに「舞台の上で同じように歌えるかい?」と尋ねる。彼女の返事で彼は劇場を再建させる父親とは違う方法を思いつく。劇場をつくることはお客をあつめることだ。ゴリラのジョニーと脱獄してきた父との和解はムーン親子の和解とも重ねられている。
For what is a man, what has he got
If not himself, then he has naught
To say the things he truly feels
And not the words of one who kneels
The record shows I took the blows
And did it my way
Yes, it was my way
『My way』Frank Sinatra
ムーンが父親と違うことができたのはミーナのおかげだろう。彼は彼女の歌があれば劇場をまたつくれると思ったのだ。それは劇場をつくるためにお金を稼ぐといったような、劇場をつくることを自己目的化したような考えとはいっさい無縁である。それは『ラ・ラ・ランド(Audition ラ・ラ・ランド|kitlog)』のラスト(セブは自分の作った劇場で新しい曲を弾けなかった)とはほとんど逆のものに見える。野外劇場は大成功しナナからの融資を得て、ムーンは晴れてジョニーやアッシュ、ロジータ、グンター、ミーナらと自分の劇場をつくりあげた。
Everybody's got a thing
But some don't know how to handle it
Always reaching out in vain
Just taking the things not worth having but
Don't you worry about a thing
Don't you worry about a thing, mama
'Cause I'll be standing on the side
When you check it out, oh
『Don't You Worry 'Bout A Thing』Stevie Wonder
この物語はある程度、震災から復興へというストーリーと似ているのが人気の理由かもしれない。
4月1日、2日の全国映画動員ランキングは、『SING/シング』(全国361館)が公開3週目も首位をキープした。2位は『モアナと伝説の海』(全国362館)、3位は『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』(全国364館)となり3週続いてTOP3に変動はなし。
『SING/シング』映画動員ランキングV3!|ニュース|映画情報のぴあ映画生活(1ページ)
9/10/2020
更新
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