誘惑のないマジック グランド・イリュージョン 見破られたトリック
派手なイリュージョンショーで不正に搾取された金だけを奪い続けるイリュージョニスト集団、フォー・ホースメン。そのテクニックはFBIまでも欺き、世間からの喝采を浴びる存在だ。ホースメンは、とあるハイテク企業の不正を暴露するため、新たなショーで再び現れる。しかし、イリュージョンは何者かの策略で大失敗。その影には、天才的ハイテク・エンジニア、ウォルター・メイブリー(ダニエル・ラドクリフ)の存在があった。徐々に明らかになるウォルターの正体、そして巨大な陰謀。追い詰められたホースメンの運命は?
グランド・イリュージョン 見破られたトリック 映画作品情報 - シネマカフェ
いきなり正直に書くと前作『グランド・イリュージョン』の方が面白かった。今作は画面が誘惑してこない。それがなぜ重要かというのは、前作の最初ホースメンになる前のダニエル・アトラス(ジェシー・アイゼンバーグ)が最初に言っている。
J. Daniel Atlas: The closer you think you are, the less you'll actually see.
近づくほど見えなくなるということだが、マジックは何か本当に見せたいものを最初は隠しておくために別のものに注目させるということをする。マジックにおいてどっちが重要でどちらが見せたいものなのかというのは難しい問題だが、それ故に両方共重要なのだ。裏で見えないように行うトリックも重要だが、表で見せないようにするものが見えなくなるような演出のトリックも同じように重要だ。今作は後者を軽く扱っているように思う。
例えば、マジックでは(これは今では性差別だとか非難の対象になるのだろうか)女性は派手な際どい衣装を着ている印象があるけど、それもトリックとして見せたくないものを隠すためのトリックで、他のものに注意をそらすための手段として用いられている。実際に前作のホースメンのヘンリー・リーブス(アイラ・フィッシャー)もそのような造形のキャラクターでほとんど不必要に胸の開いた服を着ていたりする。彼女は今作では妊娠していて出られないとのことだが、それは今作で代わりにホースメンに加入したルーラ(リジー・キャプラン)とはほとんど対照的と言っていい。ルーラは突然アトラス(ダニエルと書くとラドクリフと紛らわしい)の部屋に現れるが、彼女の衣装はとても普通というか少年っぽいというか男でも着れるような服という感じだ。もちろん女性だからといって女性的に振る舞う必要もないし女性のマジシャンの類型に従う必要もないのだが、画面上たいしたことやってないなという印象になってしまう。同じような意味でジェシー・アイゼンバーグはレックス・ルーサーの坊主頭で出るよりは前作のようなナンパしてる若者風の格好の方がマジックはやりやすいのではないだろうか。注目させる何か(それは顔でもよい)があるという意味で。
同じことはアクションシーンにも現れていると思う。前作ではマンションの一室でジャック(デイブ・フランコ)とディラン(マーク・ラファロ)がマジックを使いながら格闘するシーンがあるのだが、ここではトリックとかマジックを行う前にはその前提になる動作が見えてないといけないということがわかっていて画面が見やすいが、今作のマカオの商店街でのディランのアクションは画面がぶれすぎるためにトリックをする前提の動作に注目することができずにトリックが終わってしまうという印象がある。気持よく騙されることがかなわない。ぶれた画面は何を見ていいのかわからない混乱させるような画面で、それにつないでトリックを行っても「何かに注目させて実はこう」みたいな驚きの印象が薄れてしまうように思う。トリックの前の動作ではなくトリックの方ばかりに注目がいくというのはマジックの正しいやり方ではないというかまずいやり方だと思う。今作ではカードマジックに焦点があたっているが、それもいかに隠すかという感じでトリックとかマジックではないのではないかという気にさせられる。ウォルター(ダニエル・ラドクリフ)が最初にカード飛ばしができない人物として、自分で飛ばしたカードをキャッチできない人物として登場するが、それはまるでそれをキャッチできるかできないかがあたかもマジックに関係あるかのようであるが、それは今作の間違いを象徴してないだろうか。TA-DAのところ。
国家は政治的平等を絶対的な人類の平等に近づければそれだけ政治的平等の価値を下落させる、という結果をまぬかれることができないであろう。そして、それだけではない。同様に、そうすればそれだけ、その領域そのもの、すなわち政治そのものの価値が下落し、どうでもよいものになってしまうだろう。
『現代議会主義の精神史的状況』カール・シュミットp145,146
注目するもの誘惑するものが目減りして画面が平等になっていくと(映画から前作になかったようなポリティカル・コレクトネス風の何かを感じたのだが、それはマジックと相性が悪い気がする)、もはや空のグーもどうでもよくなって使えなくなってしまうように思う。
J. Daniel Atlas: A magician's greatest strength is an empty fist.
Dylan Rhodes: That is to say, the ability to convince a crowd that something is inside when really there is nothing
9/10/2020
更新
コメント