観光か鳩を ルパン三世 THE FIRST

かのアルセーヌ・ルパンが唯一盗むことに失敗した秘宝ブレッソン・ダイアリー。その謎を解き明かしたものは莫大な財宝を手にするといわれている。そんな伝説のターゲットを狙うルパンは考古学を愛する少女レティシア(広瀬すず)と出会い、2人で協力して謎を解くことに。しかし、ブレッソン・ダイアリーを狙う秘密組織の研究者ランベール(吉田鋼太郎)と、組織を操る謎の男ゲラルト(藤原竜也)が2人の前に立ちはだかる……。ブレッソン・ダイアリーに隠された驚愕の真実とは一体!?パリ、メキシコ、ブラジル―かつてないスケールのお宝争奪戦(ワールドミッション)が幕を開ける!!

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(映画『ルパン三世 THE FIRST』公式サイト

ルパン三世 THE FIRST
(映画『ルパン三世 THE FIRST』予告2【大ヒット上映中】 - YouTube

三人の老人たち

老人と夫婦がなにやら会話をしている。彼らが抱き合ったあと、老人が何かを渡して夫婦は車で外に出て行く。夫婦には赤ん坊が一人いる。直後に軍か警察が大勢でその家に押し入り、日記の在り処を尋ねる。老人は「ここにはない」といい「ナチの犬が」といったあとで、その場で銃殺される。作中でその日記はブレッソン・ダイアリーと呼ばれ、世界を滅ぼす力のある古代兵器の手がかりが書かれており、ヒトラーがそれを探していたとされている。その日記を渡された夫婦も軍に追われ自動車事故にあう。その事故で赤ん坊のレティシアだけが生き残る。その夫婦を追っていた一人のランベールは自身も負傷しながらも彼らから日記の鍵を奪っていく。ランベールは後にレティシアを孤児院から引き取り育て上げる。それから十数年後がこの映画の舞台である。ランベールもすでに白髪だらけになり老人となっている。ここですでに、レティシアの実の祖父ブレッソンと彼女の育ての親ランベールという二人の老人出てきたが、ここにもう一人存在しないはずの老人になったヒトラーを加えて物語は展開していく。写真の中の老いたヒトラーはなぜかCGよりも現実的に描かれている。


ランベールはブレッソンとヒトラーという両極の間に存在している。ランベールはブレッソンと同じく考古学を専門にしていて、ブレッソンの孫であるレティシアを子供の頃に引き取って育てている。詳しくは描かれないが、ブレッソンはフランス人で孫思いでヒトラーに強く反対していた。彼は自分の研究の成果が悪用されるのならば、それが破壊されることを望んでいた。ランベールは同時に戦争から十数年経ってもヒトラーがまだ生きていると信じている狂信者ゲラルトのもとで研究していた。彼らはナチスの研究機関のアーネンエルベの生き残りでヒトラー復活に向けて古代兵器の研究をしていた。しかし、ランベールは特別有能だというわけではない。ゲラルトにランベールの論文がレティシアのそれの丸写しであることがばれて嘲笑される場面などもある。昔は有能だったのかもしれないが、今のランベールはレティシアを利用して現在の地位にいるにすぎない。そのため、「育てた恩を忘れるな」といってランベールはレティシアが自由になることを認めず、レティシアが大学に行って本格的に考古学の勉強をしたいという要求も徹底的にはねつける。彼は自分の無能さをある意味自覚している。


ルパン三世 THE FIRST
(映画『ルパン三世 THE FIRST』予告2【大ヒット上映中】 - YouTube

強力な保守的政府は、短期的には明らかに有利な点を持っている。政府は経済成長を促進することも抑制することもできる。政府は、いかなる形態の近代化にあっても代償を払うことになる下層階級が、あまりやっかいを起こさないように処置することができる。しかしドイツは、そして日本はそれ以上に、社会構造を変えずに近代化するという、本質的に解決不能な問題を解決しようとしていた。このディレンマから抜け出す唯一の道は軍国主義であり、それは上層所階級を団結させた。(中略)徹底的な構造改革を行うこと、即ち、土地を耕す人々を抑圧することなく割のいい商業営利的農業に移行し、産業においても同様のことを行うこと、一言で言えば、人間の安楽な暮らしのために近代科学技術を合理的に使用することは、これらの政府の政治的展望をはるかに超えていた。これらの体制は最終的には、海外への膨張を試みて崩壊した。(p329)

独裁と民主政治の社会的起源(下)』バリントン・ムーア

ブレッソンが日記に記した古代兵器・エクリプスを手にしたときランベールは突如としてヒトラーのような独裁者の顔を見せる。彼はブレッソン・ダイアリーに火をつけエクリプスに関する知識は自分の頭の中にしかないのだと誇らしげになり、上司であったゲラルトに反抗し始める。そして自分を今まで見下した復讐だとしてベルリンのアーネンエルベの研究所にエクリプスの力を使うと言い出す。エクリプスは小型のブラックホールのようなもので、周囲何キロか何十キロかのものを消滅させてしまう。しかし、その目論見はゲラルトの力技、要は殴ったり投げ飛ばしたりすることで簡単に阻止されてしまう。その隙に、レティシアはエクリプスを使って古代兵器そのものを破壊しようとするのだが失敗し、ゲラルトに銃で狙われる。彼が引き鉄をひいたところでランベールはレティシアの身代わりになって銃弾を受け止め亡くなってしまう。彼は意識がなくなりそうになりながら、孤児院でレティシアと二回目に出会ったことを思い出していた。孤児院のシーンはもう少し時間を使って、ランベールが車にレティシアを乗せるくらいのところまで映すべきだったと思う。物語は車の事故から始まっているのだから。実際の映画はあわただしく進み、この短いシーンの中でランベールはヒトラーからブレッソンまでを揺れ動き、最終的に彼はブレッソンになることを選んだ。彼はヒトラーにならなかったのだ。


ルパン三世 THE FIRST
(映画『ルパン三世 THE FIRST』予告2【大ヒット上映中】 - YouTube

おかしな解錠の手順

ブレッソン・ダイアリーは解錠のための手順がある。まず、鍵は二つ存在していてその二つの鍵を組み合わせなければならない。鍵穴の周りにはアルファベットが書かれていて、ある八文字の暗号の通りに鍵を回さなければならない。鍵を一度さし入れるとカウントダウンが始まり、六十秒以内にアルファベットの謎を解いて鍵を開けなければならない。でなければ日記は爆発して消失してしまう。


おかしくないだろうか。日記のカウントダウンは何のために存在しているのだろう。その六十秒は何のための時間なのだろう。もしも、鍵をさし入れるとアルファベットのヒントが出てきて六十秒以内に答えを出さなければいけないのだとしたら、それは謎を咄嗟に考えることに六十秒が与えられていることになる。しかし、実際はそうではない。操作する時間に与えられている。アルファベットのヒントは与えられていて、考える時間は十分にある。しかし、レティシアが何かの拍子で鍵を日記にさしてしまいカウントダウンが始まってしまう。これでは謎解きをわざと慌しくされて、急かされているように感じる。ルパンはレティシアに振り回されすぎている。この慌しさは映画に二つのものいずれかを不足させているように思う。


観光・ヒトラーの遺産

ルパン三世 PART2 第99話「荒野に散ったコンバット・マグナム」
(【公式】3DCG映画『ルパン三世THE FIRST』公開記念!ルパン三世 PART2 第99話「荒野に散ったコンバット・マグナム」”LUPIN THE 3RD PART2” EP99(1977) - YouTube

『ルパン三世 PART2 第99話「荒野に散ったコンバット・マグナム」』も舞台がフランスで今回の映画と冒頭がよく似ている。物語の初めからルパンが銭形に追われるのだ。フランスの町をルパンのフィアットが駆け抜け、それをパトカーで追いかける。しかし、重要な違いがある。テレビアニメの方はルパンたちはまだ何も盗んではいない。ルパンと次元が車を停車してくつろいでいるところに銭形がひっそりとつかまえようとやってくるのだ。今回の映画ではお宝を盗もうとしたあとにつかまっている。それなのにただ逃げているだけのテレビアニメと同じ構図になっている。問題はルパンが盗みに入ろうとしているのに、あるいは銭形がルパンを捕まえようとしているのに、下見をするようなシーンが少しもないことだ。そのために第二次大戦から十数年後のパリがどういうところなのか少しも分からない。ただ、銭形に追われる慌しさの中でルパンがパリを駆け抜けていくだけである。上の画と似たような図でルパンとレティシアが屋上で日記を取り合うシーンがおそらくパリだとして描かれるが、視点が関係のない第三者のもので、屋上のルパンからの視点ではパリを感じさせるものは存在していない。


この映画ではパリのほかにメキシコやブラジルに行くことになるが、いずれのシーンもメキシコやブラジルを描いているようには思われない。場所性が欠如しているように見えてならない。そのために、リアリズムの面で評価するなら中途半端なことになってしまう。この映画で最も重要なシーンの一つだと思われる、レティシアがランベールの孫ではなくてブレッソンの孫であるということを知る場面がある。それをルパンがレティシアに知らせるシーンはなぜか大型ヘリの給油のために降りた海上基地の資材置き場のような場所で映される。実際は急ぐシーンではないのだから(ブレッソン・ダイアリーはルパンがすりかえて盗んできており、主導権はルパン側にある)場所を選んでも良かったのではないか。


ルパン三世 PART2 第3話「ヒトラーの遺産」
(【公式】ルパン三世 PART2 第3話「ヒトラーの遺産」"LUPIN THE 3RD" PART2 EP03(1977) - YouTube

『ルパン三世 PART2 第3話「ヒトラーの遺産」』は戦後の東西に分裂したドイツについて短い時間ながらよく描かれている。ここでは銭形がルパンが東ドイツにやってくると見て、ドイツのベルリンの壁周辺を下見している。銭形がカメラを持っていると、西側のスパイかと疑われたりもする。この辺は『ブリッジ・オブ・スパイ(Would it help? ブリッジ・オブ・スパイ - kitlog - 映画の批評)』を思い出させる。最終的にルパンは銭形に追いつめられるが、アウトバーンは戦時中に滑走路の代わりとしてつくられたという知識を使って飛行機で離陸し脱出する。ヒトラーの遺産が何なのかということについては、この映画のテーマとも似ている。


鳩・カリオストロの城

ルパン三世 カリオストロの城
(ルパン三世 カリオストロの城[4D版]2019年11月8日より期間限定上映 予告 "LUPIN THE 3RD: THE CASTLE OF CAGLIOSTRO" - YouTube

この映画では実際の都市やヒトラーという歴史上の実在の人物を用いていながら、『ルパン三世 カリオストロの城』のルパンのジャンプや『天空の城 ラピュタ』のような宮崎アニメのモチーフをいくつか使ってファンタジックに見せている。それらはルパンがピンチに見えながらもどこか余裕を感じさせる効果を生み出していると思うが、であるならば、最後にルパンは何かファンタジーを一つ見せるべきではなかっただろうか。あたかもヒトラーの狂信者なんかたいしたことないといった風に。


物語の最後、エクリプスの力でアーネンエルベは崩壊しレティシアもランベールの鎖から自由になった。ルパンはレティシアに大学の入学許可証(受験許可証?)を渡して「おまえはもう籠の中の鳥じゃない」みたいなことをいう。ルパンはこの映画の中でレティシアに散々「泥棒に向いてない」といってきたが、彼女が泥棒に興味をもたず、考古学の道に進むように彼女を説得する。そうしているうちに、フジコがアーネンエルベの施設のお宝を盗んできて銭形に追われドタバタでルパンはそこから逃げることになる。


ここでは、ルパンはゲラルトとの戦いが終わった直後で何の余裕もあるようなシーンではないのだが、それでも何か余裕を見せるべきだったのではないだろうか。例えば、「おまえはもう籠の中の鳥じゃない」というセリフにあわせて鳩をどこからともなく出して飛ばしてみるとか。鳩でなくてはいけないということではないのだが、場所に関する記述でルパンに関係あるものが希薄なので彼の心情を表すものをルパン自身の中から何か出したほうが良かったのではないだろうか。それが大学の書類だけだとなんとなく無骨すぎる。


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10/12/2020
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