シング・ストリート to find you

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大不況にあえぐ85年のアイルランド、ダブリン。14歳の少年コナーは、父親が失業したために荒れた公立校に転校させられてしまう。さらに家では両親のケンカが絶えず、家庭は崩壊の危機に陥っていた。最悪な日々を送るコナーにとって唯一の楽しみは、音楽マニアの兄と一緒に隣国ロンドンのミュージックビデオをテレビで見ること。そんなある日、街で見かけた少女ラフィナの大人びた魅力に心を奪われたコナーは、自分のバンドのPVに出演しないかとラフィナを誘ってしまう。慌ててバンドを結成したコナーは、ロンドンの音楽シーンを驚かせるPVを作るべく猛特訓を開始するが……。
http://eiga.com/movie/84613/
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コナーは音楽をはじめるとその話をするたびに「ジャンルはなんだ?」ときかれる。メガネでウサギ好きのエイモンは楽器ができるということで、コナーは彼を誘いに行くが彼にもジャンルを尋ねられる。コナーは答えに窮して「ジャンルは未来派」だと答える。一瞬、ああアレねみたいな雰囲気になるが実のところなんだかわからない。

未来を予測するにはそれを発明することだ。という有名な格言があるが発明自体にも予測が必要だ。その予測はどのように可能なのか。

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The most important factor was not how much education or experience the experts had but how they thought. You know the famous line that [philosopher] Isaiah Berlin borrowed from a Greek poet, "The fox knows many things, but the hedgehog knows one big thing"? The better forecasters were like Berlin's foxes: self-critical, eclectic thinkers who were willing to update their beliefs when faced with contrary evidence, were doubtful of grand schemes and were rather modest about their predictive ability. The less successful forecasters were like hedgehogs: They tended to have one big, beautiful idea that they loved to stretch, sometimes to the breaking point. They tended to be articulate and very persuasive as to why their idea explained everything. The media often love hedgehogs.
http://www.economist.com/blogs/freeexchange/2009/02/better_a_fox_than_a_hedgehog
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もしも未来を予測したいなら、一つの分野を詳しく知っているよりも多くの分野のことを比較的薄くでも知っている方が重要だという。私もそう思う。その時にいろいろなアイデアや思考が夢を通して現実化したり具体化するような気がする。実際にリクールだったかが学問の分野を越境することで(別の分野の言葉を比喩的に使うことで)新しいものは生まれその比喩的に使われる学問の中心は時代ごとに違っているみたいなことを書いてたような気がする。コナーはそれを実践するように、自分の音楽をジャンルをコロコロ変えていく。それは彼の中に何か音楽的な基盤がないということもあるだろうが、彼の音楽の目的が家庭でも学校でもひどい目にあった中で見つけた学校の前に住むラフィーナに音楽を聴いてもらいたいことだからだろう。しかしコナーはラフィーナに一目惚れしたものの彼女については何も知らない。彼女にどんな音楽を聞かせたいかがわからないのだ。誰にも予測することができない未来とはここではラフィーナのことだ。その悩みをそのまま表したのが最初の曲『モデルの謎』だろう。
"she's so indecipherable 
she's holds the key to the missing gold"

昭和7年 潤一郎
“私には崇拝する高貴の女性がなければ、思うように創作が出来ないのでございますが、それがようよう今日になって初めて、そういう御方様にめぐり合うことが出来たのでございます。”
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3596/1.html

コナーは谷崎のラブレターをなぞったみたいに創作に熱中し、できあがったのが『UP』。やがて彼にも自信がついてきて、転校当初いじめてきたバリーに暴力は無意味だ、創作に対して無力だと力説し彼を追い払うことに成功する。
"She lights me up

She breaks me up

She lets me up"


コナーはラフィーナについて深く知るようになる。父親が交通事故で死んでいて母親が精神病院で入院してるのだという。彼女はモデルになるために年上の彼氏のツテでロンドンに行くのだと言っていた。が、それは嘘だった。彼女はコナーに何も言わずロンドンに行ったことにしたが見つかってしまう。そして嘘を認め「この町のバーガーショップで働くの」と病院に閉じ込められた母親と自分を重ねそれを運命のように語る。

コナーがラフィーナの運命を聞く前、彼の両親は離婚しようとしていた。それで家を手放すかどうかといった話し合いもしていた。彼らの家族はまさに崩壊しようとしている。コナーの兄ブレンダンはハッパをやめて人生をやり直そうとしていた矢先のことだった。彼は以前にも金欠で大学をやめていた。それまでの兄の余裕は最早なくブレンダンはコナーに俺が苦労してつくった道をお前が楽に通ってるだけ(まるで盗んだみたいに)だと揶揄する。コナーは状況の運命のようなどうにもならなさに耐えられない。
『Drive It Like You Stole It』

"just when I was stalling, I heard an angel calling

this is your life, you can go anywhere

you gotta grab the wheel and own it, you gotta put the pedal down

and drive it like you stole it"

 コナーはこの曲のMVを撮る時にバックトゥザフューチャーをイメージしていた。実際の撮影に彼の想像が入り混じる。もしも今が1950年代ならこうなっていたかもしれないというビジョンが映る。大不況じゃなければ。両親は仲良くやっていて兄もバイクに乗ってカッコよくやっている、ラフィーナも一緒に踊っている。もし状況が違えばこうなっていたのではないか。自分の人生の邪魔をしているように思える両親も、自分をいじめていたバリーも、不遇を訴える兄も元々そういう人間ではなかったのではないか。

コナーは学園祭にバリーの協力を求める。彼の家も両親が昼間から酒を飲んでいるなど荒れていた。バンドにはガードマンが必要だと言って彼を誘う。内ゲバの前に街全体を覆う貧しさをなんとかしないといけないと思ったのかもしれない。50年代のイメージと共に。おなじように出て行こうとしている母親のことも許せるようになる。

『to find you』

"Gotta find out who im meant to be

I dont belive in destiny

But with every word you swear to me
All my beliefs start caving in
Then i feel something bout to change

So bring the lightning bring the fire bring the fall
I know I'll get my heart through
Got miles to go but from the day I started 

crawlin

I was on my way to find you"

ラフィーナの嘘はコナーを傷つけたかもしれないが、ラフィーナがいなかっらコナーはここまで音楽に打ち込むことはできなかっただろう。ブレンダンのつくった道を外れることができなかったかもしれない。だからコナーはラフィーナにもっと自信をもっていいんだって伝えて、二人はブレンダンが車で送ってくれた道の先へ向かう。彼はまだ未来派でいたいと思っている。


9/10/2020
更新

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