第二項なき第三項の苦悩 第三項は夢を見る バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生

人類を守るために異星人からの地球侵略を防いだスーパーマン。だが皮肉にも、戦いの結果は平和をもたらすと同時に、都市に甚大な被害を及ぼし、多くの犠牲者を出してしまう。その強大なパワーを、ある者は“神の御業”と崇め、またある者は“悪魔の脅威”と感じる。バットマンとして悪と戦ってきたブルース・ウェインも世界を滅ぼす力を目の当たりにした1人。スーパーマン不要論の盛り上がりに呼応するかのように、強烈な憎しみを抱き“脅威”を取り除こうと立ち上がる。同じ頃、巨大企業レックス・コープを率いる若き実業家レックス・ルーサーは、異星人の遺物を集めていた。その動きを探る謎の女も登場。人類はまた混沌とした状況へと追い込まれようとしていた……。
「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」 (1/2) - 映画ナタリー Power Push

バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生
(Batman v Superman: Dawn of Justice - Official Trailer 2 [HD] - YouTube

『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生(以下DoJ)』は『マン・オブ・スティール(以下MoS)』の続編である。『MoS』はスーパーマンの誕生に関する物語である。クリプトン星崩壊の危機の中、ジョー=エル(ラッセル・クロウ)は息子に希望を託し彼を地球へと送った。彼はカンザスの農家ジョナサン(ケヴィン・コスナー)とマーサ(ダイアン・レイン)の夫婦に拾われ、クラーク・ケント(ヘンリー・カヴィル)として育てられる。彼がスーパーマンだ。クラークはもちろん地球人ではなくクリプトン人で地球人とは桁外れの身体能力、潜在能力を秘めている。しかし、その能力を使うことを養父のジョナサンから固く禁じられていた。なぜなら「人は理解できないものを恐がり、攻撃してくるから」だという。ジョナサンは決してクラークに能力を使うことを認めなかった。ハリケーンがクラークら家族や街の住人らを襲い、その猛威から彼らを救って逃げ遅れたジョナサンを助けようとしたクラークに対しても、ジョナサンは「ダメだ、今は力を使うな」という風に無言で制し助けを求めずハリケーンに飲まれていった。息子がバケモノ扱いされる将来が怖かったのだろう。しかし、事態は他のクリプトン人がクラークを探しに地球にやってきたことで急変する。今までは地球人に対してクラークがクリプトン人という構図で、第一項(地球人)に対して第二項としてクラークが潜在的に人類の敵となる可能性を秘めて存在していた。理解できないものは排除されるとすれば。他のクリプトン人がやってきてからは、彼らが得体の知れない理解できない第二項として地球人に認知されるようになった。そうするとクラークの立ち位置は第二項からスライドして第三項に移る。第三項というのは第一項と第二項の中間者のことだ。クラークはクリプトン人の能力を持ちながら地球人の文化を理解している両者の中間者である。悪夢の中でゾッド将軍(マイケル・シャノン)は中間者のクラークに選択を迫る。クリプトン人につくか地球人につくか。彼は母親と彼女を守ることをきっかけに地球を救う。

さて『DoJ』である。『MoS』では第三項にスライドすることができたのだが、『DoJ』では第二項としてのクリプトン人はもういない。『MoS』で奇跡と希望をもたらしたスーパーマンは人類に相対する第二項にスライドさせられることになる。彼は潜在的な脅威(クリプトン人)か他のエイリアンを呼び寄せるだけの中間者に格下げさせられる。少なくとも外面上は。とてもひどい話だが映画ではこうなっている。スーパーマンの代わりに第三項の役割を果たそうとするのが、バットマンことブルース・ウェイン(ベン・アフレック)とレックス・ルーサー(ジェシー・アイゼンバーグ)だ。彼らは共に象徴に出会い、クリプトン人が残した遺物によって(地球の文化や科学や知恵とクリプトン人の残した何かを使った中間的な行為で)スーパーマンと対峙しようとする。

バットマンは二度夢を見る。一つは母親の墓に花を手向けに行くと墓の隙間から粘り気のある液体が流れだし、中からモンスターが墓を割って出現しウェインに襲い掛かってくるというものだ。もう一つはクリプトナイトを奪おうとしたが失敗しスーパーマンの率いる軍隊に捕らえられ殺されそうになる。この夢では羽の生えた虫のような軍人の格好をした何かがスーパーマンの味方として出てくるがクリプトン人を表象したものだろうか、よくわからない。ついでにいうとこの夢から目覚めたウェインに忠告するスーツを着た人がいるのだが、アメコミに疎いせいで誰なのかよくわからなかった。二番目の夢はわかりやすい。スーパーマンを悪の象徴系の中でとらえ彼を悪と認定するための物語(夢=映画)だ。しかし実際に起こっていることは夢とは全く逆である。バットマンはクリプトナイトを手に入れるし、スーパーマンは軍隊を率いてもいなければ何かを落とし入れようとしている絶対悪でもない。彼は超能力を持ちながら法と人との間の場、裁判所に降りてきた。『MoS』の時の戦闘での被害者の呼び出しに応じたのだ。もし何らかの判決が出て罪を問われるならばその刑を受け入れていたかもしれない。実際は裁判所がテロで爆発して裁判は宙吊りになってしまったが、彼は人と法の間で苦悩し父親の夢を見る。そして父親の語る逸話からカンザスの正義を受け入れる。といった風にバットマンの夢は正反対のものを描いているのだ。とすると、最初の夢も解釈することができる。これも正反対なのだ。バットマンはその象徴の意味に気づかずにスーパーマンと対決する。が最後のところまさにスーパーマンを死に至らしめようというところで、夢では襲ってきた母親に救われる。クラークはレックス・ルーサーに母親を人質に取られていた。レックス・ルーサーはバットマンを倒せば母親を返すと。しかし、闘いはクリプトナイトを持つバットマンにスーパーマンは劣勢で殺されそうになる。その間際スーパーマンは「マーサを助けてくれ」とか細い声を漏らす。バットマンは「何で知っている?」というのだが、実は彼らの母親の名前がマーサで一致していたのだ。ここで、バットマンは自分がゴッサムの正義のために戦っているように、スーパーマンも普遍的な超越的な正義(バットマンを脅かす)ではなくカンザスの正義で戦っていると知る、つまり立場は同じなのだ。『MoS』のような敵としてのクリプトン人がいなければ。ここから彼らの共闘がはじまる。

レックス・ルーサーは夢を見ない。彼が見るのは現実であり象徴としての絵画である。彼は天使と悪魔の絵を見ながら「悪魔は地獄の底からやってくるってのは違う。奴は空からやってくるんだ」という。ここで彼が悪魔といっているのはスーパーマンのことだろう。善と悪にはこういった象徴が必要だ。天使と悪魔の絵は縦半分は天使そのもう半分は悪魔という風に対称に描かれている。彼は思う、もしもスーパーマンが悪魔なら天使を召喚しなければならないと。彼はバットマンのように無意識に間違えているのではなく、自分で絵の上下を変えて違う現実を創りだそうとしている。そして地上に倒れたクリプトン星人の宇宙船の中で(悪魔が空からやってくるなら天使は土からやってくる)実際作るのがゾッド将軍の遺体と自分の血液から合成したドゥームズデイだ。ただレックス・ルーサーはドゥームズデイを召喚したところで役割が終わってしまう。人類対ドゥームズデイという構図になり、彼は無力な人類の方に加わらざるをえない。彼が何をしたかったのかは謎である。スーパーマンを何らかの方法で消滅させるのはいいとして、そのあと本当にスーパーマンが死に人類対ドゥームスデイという構図のみになってしまったらどうするつもりだったのか不明である。過激化する新興宗教と似たような、意識的に間違った象徴を取り入れることの弊害なのかもしれない。スーパーマンはクリプトンの脅威ドゥームズデイの存在によって第三項、中間者の役割を取り戻す。しかしもしもドゥームズデイに勝ってしまったら、彼はまた人類に疎まれるような存在になってしまうのかもしれない。そんな予感を持ってしてなのか、彼は半ば自殺でもするかのようにドゥームズデイと刺し違え自分の命を燃やして地球を救う。ラストに彼は復活の兆しを見せるが、復活した後に彼はまたスーパーマンになりたいと願うだろうか。
9/10/2020
更新

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