おおきながんとれっと、アイアンマンという希望 アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー

6つすべてを手に入れると世界を滅ぼす無限大の力を得るインフィニティ・ストーン。その究極の力を秘めた石を狙う“最凶”にして最悪の敵<ラスボス>サノスを倒すため、アイアンマン、キャプテン・アメリカ、スパイダーマンら最強ヒーローチーム“アベンジャーズ”が集結。人類の命運をかけた壮絶なバトルの幕が開ける。果たして、彼らは人類を救えるのか?

作品情報|アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー|マーベル公式

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー
(Marvel Studios' Avengers: Infinity War - Official Trailer - YouTube

おじいさんが植えたかぶが、甘くて元気のよいとてつもなく大きなかぶになりました。おじいさんは、「うんとこしょどっこいしょ」とかけ声をかけてかぶを抜こうとしますが、かぶは抜けません。おじいさんはおばあさんを呼んできて一緒にかぶを抜こうとしますが、かぶは抜けません。おばあさんは孫を呼び、孫は犬を呼び、犬は猫を呼んできますが、それでもかぶは抜けません。とうとう猫はねずみを呼んできますが……。

おおきなかぶ|福音館書店

この映画は『マイティ・ソー バトルロイヤル』(戦争の記憶と民主主義者の限界としてのTownship マイティ・ソー バトルロイヤル | kitlog)の直後から始まる。『マイティ・ソー バトルロイヤル』では、ヴィランであるヘラの強さは圧倒的だったが、弱点が示されていた。しかし、この映画の「ヴィラン」サノスは弱点がほとんどないように見える。その上、インフィニティ・ストーンを集めながらどんどんパワーアップしていく。サノスは、インフィニティ・ストーンという無限の力を持った石を手にしながら、宇宙の資源は有限だと信じており、資源を消費する全宇宙の人口を半分にして人々が資源不足で絶滅しないようにするのだという。彼はその仕事を自分の運命であると信じきっており、宇宙で自分だけが意志を有しているのだという。インフィニティ・ストーンを全て集めれば、彼は指を鳴らすだけでその手段を達成できる。サノスの意志と力の前にアベンジャーズは為す術がない。

そんなサノスを追い込み、その野望を潰えさせることができる瞬間が映画の中で一度だけあった。ストレンジとピーター、トニーは敵の宇宙船を奪ってサノスの基地に攻撃を仕掛けることにした。そして惑星タイタンで出会ったガーディアンズの面々と協力してサノスを倒すのだと。ストレンジはタイムストーンを使ってあらゆる未来の選択肢を探り、1400万通りの事象の中から一つだけ勝てる方法を見つけたという。サノスが現れると、彼らはインフィニティ・ストーンの嵌ったガントレットを使わせないように、その手の自由を奪いつつ徐々にサノスを追い詰めていき手足の自由を奪って同時に、ストレンジの魔法でワープしてきたマンティスによってサノスを催眠状態にする。サノスの意志は強い、マンティスの催眠も長くは持たない。ここからが問題だ。トニーとピーターはなぜかガントレットを脱がそうとしている。彼らは「もう少しで抜けそうだ」という。そこにその作業を待っていられないクイルがやってきて「ガモーラはどこだ」という。ガモーラはクイルの恋人だ。ノーウェアでサノスがガモーラをさらっていくことにクイルは少しも抵抗することができなかった。サノスは催眠状態になりながらもそれに答えて「私はそうしなければならなかった」という。マンティスはその言葉を発するサノスの心に悲しみや罪悪感を読み取る。クイルはガモーラが死んだことを読み取りこんなモンスターに感情が?といって暴れ、作戦を台無しにしてしまう。ストレンジはこのことを読んでいなかったのだろうか。

ストレンジの不可解な点はそこだけではない。彼はなぜサノスの左手を切り落とさずに、ガントレットを脱がせるということをさせたのだろうか。彼はそうしないでサノスの右手を抑えていた。手を切り落とすというのはとても暴力的でグロく映画になじまないかもしれないが、この映画内でそれは一度行われている。地球にサノスの手下が現れたとき、なかなかハルクに変身しないバナーを見てストレンジは別の場所にワープさせた。その時、少々雑なやり方だったために、近くにあったタクシーも半分切断された状態でバナーと一緒にワープしてきた。ストレンジは空間を自在に切断することができるのだ。それは彼だけではなくて同じ魔法を使えるウォンも同じことができる。アイアンマンであるトニーはサノスの手下に苦戦を強いられていたが、ウォンが空間に穴を開けてそいつを雪原へとワープさせ、それが戻ってこようとしてきたところで穴を閉じ片腕を切断した。片腕は現在地に落ち、体の方はどこかの雪原に放ってしまった。同じことがサノスとの戦いでもできたはずだ。腕だけを別の空間へ飛ばすことが。それはタイムストーンの未来検索には含まれなかったのだろうか。アイアンマンとスパイダーマンはガントレットを引っ張ってそれを脱がそうとしていた。彼らは「もう少しだ」といって、クイルに余計なことをしないようにいう。クイルがアイアンマンとスパイダーマンの後ろについて引っ張ればガントレットは抜けただろうか。その後ろにネビュラが加わればガントレットは抜けただろうか。

作戦は失敗し、サノスはストレンジにタイムストーンを渡さないとトニーを殺すと脅す。ストレンジはタイムストーンが危機に陥ったら、仲間を見捨てて自分一人でもその場を離脱するといっていたが、トニーの命を守るためにそれとタイムストーンを交換した(サノスはこのような交換を三度行うが、それによって助けられたソー、ネビュラ、トニーは指を鳴らしたあとも生き残っている)。なぜここでもタイムストーンを使わないのか疑問には思ったが、この決断はおそらく今後の物語を左右する大英断だろうと思う。

この時期の技術的進歩をはなはだしくおしとどめた第二の大きな要素は、地中海世界が多数の小都市国家にわかれていて、これらがほとんどひまなしに戦争しあっていたことである。この分裂は、一方では製造工業にたいする市場をひじょうにせまくすると同時に、他方では、さもなくば人類の進歩に何か寄与したかもしれない大ぜいの人間(天才も大勢いたかもしれない)の精力をむざむざと戦争のことについやさせたのである。(p35)

『人類と機械の歴史』S.リリー

サノスの意志は明らかに停滞への意志である。それは彼が無限の力を持ちながら有限な資源を気にしているというおかしさにあらわれている。彼はなぜ無限の力を有限な資源をうまく利用するために使わないのだろうか。彼はその無限の力を戦争を呼ぶ方向に使おうとしている。

いまわれわれが論じている時期の社会は、社会的な大変革が完了し階級分裂が固定したとき、大づかみにいって、二つの階級にわかれていた。広大な人民の大多数は、農民、奴隷、農奴からなる抑圧された階級をなし、社会のあらゆる生産的な仕事をおこない、その代償として、わずかにかろうじて生きるだけの生活資料をあたえられていた。他方、僧侶、貴族、王などきわめて少数の人間からなる支配階級は、生産的な仕事はなにもせず、他人の労働の生産物で豪勢にくらしていた。労働する階級は、すでに存在している技術によくなじんでいて実際的な経験をもっていた。これによって、かれらは、どうすれば生産技術の改良ができるか、しることができたはずである。ところがかれらには、改良や発明にたいする刺激はなにもなかった。たとえ改良や発明のために生産がふえても、ふえた分はすべてかれらからとりあげられ、かれらの主人の暮しをさらによくするだけであったからである。そのうえかれらは夜も昼もぎりぎりに働かねばならなかったのだから、発明に必要な余暇もなかった。他方、支配階級の方は、世界をたんに消費者の観点からしかみなかった。かれらは、実際の生産の仕方については何もしらず、したがって技術の欠陥には気がつかないのがふつうであったし、気がついたところで改良をおこなうにたる実際的な知識というものをもたなかった。かれらがよくしっていたのは、搾取の技術、統治の技術、百姓からさいごの一粒の穀物までとりあげる技術、であり、またこれらの技術では、かれらはおおくの改良進歩をなしとげたのである。しかし社会の生産技術を進歩させることは、かれらの能力をこえたことであった。こうして、一方には、ひつような知識と経験をもっているが刺激と余暇のない階級、他方には余暇はあるが知識も経験もない階級、ということになったわけで、これでは技術の進歩などおこりようがなかったのはとうぜんであった。(p24,25)

『人類と機械の歴史』S.リリー

サノスはここでいわれている、余暇はあるが知識も経験もない階級、僧侶、貴族、王などと類比される階級の象徴であろう。この本の中で同じ停滞期の階級の違いが次のように記されている。”教育なく余暇もなく報いられる希望も持たぬ奴隷は、より生産的な方法を発明する立場にはなく、他方市民は、手の労働をさげすみ、発明の仕事すら手の労働に関係があるとしていやしんだのである。(p35)”ここでは誰も新しいものを作ろうと思わない。そしてサノスは典型的な力はあるがアイデアのない人なのだ。彼はドワーフの星で「各星の人口を半分にする」という運命を破って、ガントレットを作らせたドワーフの一人を残して殺戮してしまった。しかも、サノスはそのドワーフの手を切り落とした。それは手仕事をするな、つまり発明をするなということではないか。そしてサノスはタイタンでの最後の戦いでアイアンマンと一対一で戦っているときにトニーのことを「知識に呪われたもの」といって蔑むのだ。それはアイアンマンが奴隷でも王や貴族でもなく、そういった階級関係にとらわれない、知識も経験もあり教育も余暇もある、新しいものの発明が可能な人間だからだ。サノスは消費のことしか頭にない、それゆえに資源がなくなってしまうことの解決が消費しないこと、消費する人間を減らすことになってしまうのではないか。問題を解決するために生産することには頭が向かないのだ。そのサノスの論理に対抗できるのは、アベンジャーズの中ではその階級の論理の止揚を体現したアイアンマンしかいない。アベンジャーズはサノスの停滞に逆らって産業革命を起こさなくてはならない。
9/10/2020
更新

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