ZQNと法とロレックス アイアムアヒーロー

漫画家アシスタントの鈴木英雄(大泉洋)は35歳で、彼女とは破局寸前。しかし彼の平凡な毎日は、ある日一変する。英雄が徹夜仕事を終えアパートに戻ると、彼女は異形の姿になっていた。謎の感染によって人々はZQN(ゾキュン)という生命体に変貌を遂げ、街に溢れ出す。日本中が感染パニックに陥るなか、標高の高いところでは感染しないという情報を頼りに、英雄は富士山に向かう。その道中で、女子高生・比呂美(有村架純)と元看護師・ヤブ(長澤まさみ)と出会った英雄は、彼女たちとともに生き残りをかけた極限のサバイバル挑む……。
アイアムアヒーロー | Movie Walker

アイアムアヒーロー
(映画「アイアムアヒーロー」特報1 - YouTube

食前食後にこの映画を鑑賞する場合は少し注意が必要だろうと思う。R15指定されていることからわかるように、かなり残酷でグロい描写が延々と続く。怖いというよりグロい。人間の顔は変わり形も変わり、血が吹き出したかと思うと立ち上がってゾンビ(映画ではZQNと呼ばれている)として向かってくる。本当に思い出したくないほどの近年映画館で稀にみるグロさで、映画を途中退席した人もいたという噂もあるが、それほどのグロさを前にして目を背けず不快感を感じないほうがおかしい。そうすると違和感を覚えるのは登場人物の誰一人として観客が感じているようなグロさを感じていないんじゃないかということだ。こんなに気持ち悪いのに誰かそのような感覚や感情を表に出した人物がいただろうか。何か死体慣れしてる?そんな違和感をもった。感染源がどこなのかわからないのでZQNでパニックになるのは場所によって時間の差がありそれぞれの人で感じ方も違うかもしれないが、私の見落としか(グロいので私の無意識が思い出したくないと思っているのか)誰かグロいなーという感じで見てる人見たものを思い出した人いたのかな。これ観たあとに御飯食べるの嫌だなと率直に思ったので、登場人物がフォロー無しで普通にご飯食ってるのがちょっと変だなと思った。

とはいえ鑑賞中には余りそんなことは気にならず、歩道橋から街中に至る一連のZQNが湧いてくるプロセスはとても良かった。歩道橋で腕に怪我をして出血している人から始まって人通りの少ない住宅街から大通りに抜けて徐々にZQNの数が増えパニックの度合いが増してくるところはワンショット(?)で撮られていて時間を経ずに一気にウィルスが広まったことを表わしていて見入ってしまった。映画は群衆が出てくるととても画面が引き立つ。


主人公の英雄は30代半ばで漫画家のアシスタントとしてうだつのあがらない生活を送っていて、同棲している恋人のてっこ(片瀬那奈)にもいつまでそんなことやってんのと急かされている。DQNの感染が拡大して以降もそのようなうだつのあがらない感じを引きずっていて、銃刀法を守って銃を撃てなかったり非日常では時間を知る以外に価値の無いロレックスに執着したりとダメなやつのように見える。ロレックスを大量に左手につけていたことでZQNに噛まれないですんだシーンがあるが、ロレックスrを予め防具として装備していたというよりは「今はもう価値が無いから好きなだけどうぞ」と言われて好きなだけつけて偶然助かったという感じがする。彼は世界が既に変わってしまったのにZQNのいる新しい世界になじめないダメな奴なのだ。彼自身、比呂美がボーガンで撃たれるのを助けられず「世界が変わったのに、俺が銃を撃てば助けられたのに。俺は全然ダメだ」と告白する。

それを言葉通りに受け取っていいのだろうか。ヤブは英雄に「比呂美を助けて連れてきたのかっこいいね」といって彼を褒める。彼女は看護師でZQNのウィルスが広がるなか患者を置いて逃げてきたことを悔いてそう言っている。劇中でZQNは過去の体験を繰り返しているという説明があるが、ヤブはそんなZQN達を見て「過去の記憶の中だけで生きてるほうが幸せかもね」とつぶやく。過去とは単に昔のことというだけではなく、ZQNがいなかった日常のことだろう。もしもこの患者がZQN感染者ではなくインフルエンザの感染者なら彼女はその人を助けることができただろう。けれどそうではない。昔とは違うのだ。全く違う行動原理で動かないといけないように見える。けれど、英雄はなぜ比呂美を助けて連れてきたのだろう。

英雄は単にZQNのいる世界に対応できずに天然でズレたダメな行動をしているだけなのかもしれない。けれど時代遅れに法やロレックスの価値を守っているということは日常がもう一度戻ってくるということを信じているということではないのか。日常が戻ってくればもしかしたらロレックスには価値が出るし銃を撃って殺人罪に問われることもない。彼はZQNのいる世界に対応できないのではなく、ZQNと同じように過去の世界を生きようとしているのだ。それも人間として(ZQN化したてっこが歯なしで噛んだ内出血の痕が希望のしるしだったのかもしれない)。彼は絶望として過去の世界に行きているDQNと違って希望としてそれが戻ってくることを信じて過去の世界を生きている。と他人には、少なくとも比呂美やヤブには見えたのだろうと思う。「英雄くんといると大丈夫な気がする」というのは彼が日常が戻ってくることをそれが天然や無意識だったとしても信じているように見えるからだ。彼はDQNの感染が拡大した最初から日常が戻ってくることを信じたヒーローだった。
9/10/2020
更新

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