自分を傷つけないモノで相手を傷つけることができるのか 暗殺教室

名門進学校・椚ヶ丘中学校の落ちこぼればかりが集められた3年E組に、突如として謎のタコ型生物が現われた。すでに月の7割を破壊したというその生物は、1年後に地球の破壊も予告しており、多くの刺客や軍隊が暗殺を試みるも全て失敗に終わっていた。そして謎の生物は、自らの希望で椚ヶ丘中学校3年E組の担任に就任。通称・殺(ころ)せんせーの暗殺を政府から秘密裏に依頼された3年E組の生徒たちは、様々な手段で暗殺に挑む一方で、意外にも生徒思いな殺せんせーのもとで成長していく。
映画 暗殺教室 : 作品情報 - 映画.com


冒頭で説明されますが、殺せんせーには通常兵器は通じず対殺せんせー用の武器でしかダメージを与えることができません。その武器は、中学生が本物の拳銃や刃物を持っていると危険だとして、ゴムのような柔らかい物質で加工してあり自分や他の生徒が傷つくことがないように配慮されています。朝の挨拶と同時に殺せんせーに対するクラス全員による一斉射撃が始まりますが、一発くらい偶然あたっても良さそうだけど弾丸はまったく命中しません。暗殺しろと言ってるのに真正面から撃ってるだけでは当たらないのも当然かもしれません。という風に上のあらすじの説明も含めて殺せんせーというのは人間とはまったく違う性質の存在です。そういう存在は劇中でもう一人イトナという登場人物がいるのですが、彼も見た目は人間に近いですが殺せんせーと同じ触手を有しており、どちらかというと殺せんせーに近い。ここで、殺せんせーとイトナを「触手」というグループに入れると、この映画では「人間」対「人間」、「触手」対「人間」、「触手」対「触手」の戦闘が描かれていることを見ることができます。

「触手」対「触手」は殺せんせー対イトナです。
この戦いで決め手になったのは、対殺せんせー用のナイフでした。殺せんせーは序盤劣勢に立たされますが、相手が自分と同じ性質を持ったものだと知るや一種の自己批判「自分の弱点として有効なものは相手にも有効である」を行って、自分の弱点で相手を圧倒します。

「人間」対「人間」は渚対鷹岡です。
ここでも上とほとんど同じなのです。決め手は人間に対して殺傷能力のある普通のナイフ。ルールは渚が鷹岡に一回でもナイフを当てる(切る)事ができれば勝ちというものです。鷹岡は渚が人を殺せるナイフにビビって、何もできないだろうとたかをくくっていたのですが、所詮「人間」対「人間」でホッブズがいうように力の差というのは比較的小さく、そのようなルールでは何か武器があればその差はたちどころに無いものになってしまいます。それに気づいたら武器を持っている方の勝ちです。(実際にナイフを持つ人間が現れたら近づいて(近づかせて)はいけません、映画のようにがむしゃらに間合いを詰められたあとにはどうしようもなくなります。)

最後に「人間」対「触手」です。
これは見るべき戦いが二つあって、一つはカルマ対殺せんせー、もう一つは最後の生徒対殺せんせー(先生)から続く一連のシーンです。
まずこの違う性質のものどうしの戦いでは、上の同質のものどうしの戦いと違って、当たり前ですが自分を観察しても相手の弱点は見えてきません。同じことを言うようですが、自分と相手が違うからです。なので殺せんせーに対する観察、あるいは実験的態度をとることは正しい。自然に対する科学的態度のように。水が弱点だとか、どういう性格かとか暗殺のための材料が揃えば、それを実行するための方法を考えなければならない、しかし、方法は無限にあるのだから方法の選択肢を増やすために一つの方法が失敗した時に第二の刃を用意できるように教養を身に付けろと殺せんせーは明確に言います。

カルマは殺せんせーが3-Eの生徒を傷つけないというルールを自分に課していることを利用して(非殺傷武器は殺せんせーによる提案かもしれない)、飛び降り自殺を選ぶ。もしもルールを守って自分を助けに来たらその隙を狙って銃を撃つ、助けに来なかったらルールを守れなかったとして責めを負う、それを自分が落ちている間に選択しろということですね。結果的にこれはうまくいかないのですが、この方法は危険とはいえ有効だろうと思います。終盤に鷹岡が、生徒と殺せんせーを一緒にして暗殺しようとしたのは上の応用でしょう。これは生徒に助けられなければ詰んでいたかもしれません。あるいはカルマの場合で、所有している銃の弾丸が本物で殺せんせー用素材コーティングがしてあるものだとしたら、あらゆる方法で自殺と見せかけてということが可能になりますが、やはり教育に重点が置かれているのでしょうね。

「人間」対「触手」と書きましたが時間が経てば、「人間」対「人間」と変わらなくなってくるのかもしれません。同じ空間で過ごすことによる同質化が弱点になるのかもしれませんね。そもそも暗殺を望んでるかという問題もありますが。

9/10/2020
更新

コメント