嗚呼、東京 シン・ゴジラ

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東京湾アクアラインのアクアトンネルが轟音(ごうおん)とともに一部崩落、浸水する事故が発生する。首相官邸では関係閣僚を集めての緊急会議が開かれ、証拠不十分ながらも崩落の原因は地震や海底火山という意見がまとまろうとしていた。内閣官房副長官の矢口(長谷川博己)は巨大生物による可能性を指摘するが、内閣総理大臣補佐官の赤坂(竹野内豊)をはじめ、周囲は一笑に付すだけ。だが、その直後にテレビ画面に映ったのは、海上に姿を現した巨大生物の姿だった。
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前半の情報を畳み掛ける感じは東日本大震災の時に感じた危うさに似ていた。原発が水蒸気爆発を起こし「えっ」という驚きとともに何となく無力感を感じつつも、できるだけ情報を集めたいと様々なメディアを横断したときのような。情報を集めている間にも事態は進行している。

ゴジラ二回目の登場で自衛隊の攻撃は全く役に立たず日米安保を適用して米軍に戦力を頼ることになる。米軍から計画の概要を渡され、それは紙の上だけの描写であったが、ほとんど東京大空襲のやり直しに見えた。米軍の地中貫通弾はゴジラにダメージを与えることはできたが、それによって怒り狂ったゴジラは放射熱線をあたりに撒き散らし東京は無惨に破壊されてしまう。それはあらゆるものを焼き切ってしまう。ゴジラはエネルギーを溜めるために一時的に冬眠したような状態になるが、その間に国連の同意を得てゴジラに熱核兵器を使用することが計画される。東京大空襲を再現しようとした後に東京に核を落とすのか!「ちょっと待ってくれよ…」と半ばうんざりした感じで画面を見ていた。ここで私は奇妙な感覚にとらわれる。

この映画は会議や作戦室の描写が中心であるためか、登場人物に感情移入がしにくい。主人公の矢口にしても、エリート的な使命感ばかりが前面に押し出されている感じで彼の目を通すと周りのものがコマ以上には見えにくい、仕事とはそういうものだと言われればそうかもしれないが。また、市民については避難の描写はあるが救助の描写はない。避難と救助の違いは周りが壊れているか壊れていないか。市民は壊れたあとの街について何も言わない。「また作り直せばいい」といったおじいさんは出てこない。そのくせ官邸前で良く分からんデモをやっている。彼らはちょうど何の声を上げているのか分からないようになっていて、単に官僚の邪魔をしているということにしかなってない。という風に、テンポよく画面が進んでいくものの何となく感情移入の対象を見つけられないでいた。そこにやって来るのが東京への核攻撃である。ここではじめて感情が揺さぶられる。これでは東京が可哀想だと。東京都民がとかいった具体的な対象ではない。避難済みなので都民はもういない。抽象的な対象である東京が可哀想だと思った。

核攻撃の前にゴジラが東京を破壊していたのは事実だ。しかし、それに関しては特別な感情を抱くことはなかった。ちょうど矢口が米軍の空爆があるから地下に避難しようとしたところで初めて生でゴジラを見て「あれがゴジラか」とつぶやいた時のように、ゴジラが東京の都市を練り歩くのを淡々と眺めるだけだった。ゴジラが東京を破壊するのは構わないが米軍が核攻撃を開始することには特段の躊躇いや嫌悪を感じた。

物語は核攻撃を阻止する方向に進んだ。原発事故のパロディのような解決で、作戦が終了しても作戦を遂行したメンバーの視線しかないためか「やった!やったぜ!」というよりも淡々として「疲れた…」という感じの方が強く出ているが、現実はそういうものかもしれない。もし「やった!やったぜ!」とテレビに向かって叫ぶゴジラから遠い市民が出てきたら、画面的に彼らは虚構に向かって叫んでいるように見えてしまったかもしれない。それこそ官邸前で「ゴジラを〇〇」と叫んでいた人達と同じように。

追記8/4 
感情を排したり人間ドラマを極力避けているのがいいという意見をよく目にするのですが、そうすると人間と対峙しているゴジラが単なる障害物にしか見えなくなるおそれがあると思う。米軍の核攻撃に対する恐れ以上のものをゴジラに見出せなかったのもその辺りに原因がありそうな気がする。米軍の核攻撃を議論するシーンはそれに対する反応や感情がよく表れてた。政府はゴジラに対して法的対応を取り続けるのですが、そればかり強調すると民法でペットがモノ扱いなように、ゴジラの存在が幾分卑小なものに見えてしまわないか。

※補足しておくと〇〇がないというのは、それがこの映画に必要だったという主張ではありません。シーンは簡単に足したり引いたりできるものではないので。

追記8/8
色々感想を見ていて思うのは、この映画は明らかに3.11が下地にあるけど、それが悪夢だとしてそれを別の悪夢で置き換えてくれて嬉しいというのを面白いというのと混同してないだろうかということ。人間ドラマがなくて良かったというのは3.11で人間ドラマのようなものを見たくなかったということではないか。あとは図鑑的な面白さがあるのだと思う。



9/10/2020
更新

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