「Wait!Wait!Wait!」 マネー・ショート

2005年、へヴィメタルをこよなく愛する金融トレーダーのマイケル(クリスチャン・ベール)は、格付の高い不動産抵当証券の事例を何千も調べていくなかで、返済の見込みの少ない住宅ローンを含む金融商品(サブプライム・ローン)が数年以内に債務不履行に陥る可能性があることに気付く。しかし、その予測はウォール街の銀行家や政府の金融監督機関からまったく相手にされなかった。そんななか、マイケルは“クレジット・デフォルト・スワップ”という金融取引に目をつけ、ウォール街を出し抜こうと画策する。同じころ、マイケルの戦略を察知したウォール街の銀行家ジャレット(ライアン・ゴズリング)は、信用力の低い低所得者に頭金なしで住宅ローンを組ませている大手銀行に不信感を募らせるヘッジファンド・マネージャーのマーク(スティーブ・カレル)を説得し、“クレジット・デフォルト・スワップ”に大金を投じるよう勧める。また、今は一線を退いた伝説の銀行家であるベン(ブラット・ピット)は、この住宅バブルを好機と捉えウォール街で地位を築こうと野心に燃える投資家の二人から相談を持ち掛けられる。ベンは自分のコネクションを使って、彼らのウォール街への挑戦を後押しすることを決意する。三年後、住宅ローンの破綻をきっかけに市場崩壊の兆候が表れ、マイケル、マーク、ジャレット、ベンは、ついに大勝負に出る……。
マネー・ショート 華麗なる大逆転 | Movie Walker

マネー・ショート 華麗なる大逆転
(『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 予告(90秒) - YouTube

ひどい内容の映画であるがひどい映画かどうかはわからない。この映画で人々が演じることは次のように例えることが可能かもしれない。タイタニックが今まさに沈没しようとしている時に、そのことが分かっていながらそのことを横目にすべての登場人物が船の乗員が助かるかどうかについて賭けを行っている。華麗に大逆転をしたとされる4人の中心人物はほぼ乗員が助からないことを沈没するかなり前から知っておきながら助からない方に賭けるのだ。なぜか?儲けるためだ。そこから誰もはみ出そうとはしない。どこかに救助を呼ぶこともなく、賭けの対象の勝敗が決まることをじっと待っているのだ。一見道徳的に見えるマークも「Wait!Wait!Wait!」と叫ぶ。時間が経つほうがより多く儲けられる(銀行の損害が多くなる)からだ。

この映画には、女優のマーゴット・ロビーや『キッチン・コンフィデンシャル』でレストラン業界の裏側を暴いたシェフのアンソニー・ボーデインといった異業種の著名人が本人として登場し、難解な金融の用語を自己流に解説するようなコメディの要素が盛り込まれている。
ウォール街を出しぬいた4人の男たちの実話 | 大場正明 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

「Wait!Wait!Wait!」物語は特に何か進展するということはない。破綻までの経過は上のようなコメディ要素も含めてただの時間つなぎのように見える。なぜなら常にキャラクターは「Wait!Wait!Wait!」と暗示をかけられているからだ。だから市場を超越するような解決(例えば政府や法に解決をするよう促すといったような)を誰も提示しない。マイケルがドラムを叩きながらメタルを聞いてしばらくするとパソコンのモニターを確認してホワイトボードに数字を書く。この映画では数字だけが問題なのでドラムを叩くのは特に何の意味もなく、ただ激しくうるさい曲とは裏腹に「Wait!Wait!Wait!」の時間なのだ。観客への接待の時間だ。登場人物らと同じように我々もコメディ要素などの接待をうけるのだ。

「マネー・ショート」は最大の疑問には答えていない。それはなぜバブルが起きたのか、なぜ人々はバブルが崩壊しないと思い込んだのかという点である。答えはマクロ経済や社会に関わる要因――ナスダックバブルの崩壊後のFRBによる低金利政策や米債券市場への海外資金の過剰流入、長年にわたる経済的安定による慢心、金融のイノベーション、経済の安定による規制基準の緩み――にあるのだが、映画ではほとんど触れられていない。こうした要因は世界のあちらこちらに見られた。多くの国で住宅バブルが起き、銀行が救済された。
映画「マネー・ショート」どこまで金融危機の真実に迫れたか - WSJ

『マネー・ショート』はその疑問には答えている。「Wait!Wait!Wait!」
9/10/2020
更新

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