リモコンの世界 チャッピー
「第9地区」「エリジウム」のニール・ブロムカンプ監督が、「第9地区」同様に南アフリカ・ヨハネスブルグを舞台に設定し、成長する人工知能を搭載したロボットをめぐる物語を描いたオリジナルのSF作品。2016年、南アフリカのヨハネスブルグでは、テトラバール社の開発した警察ロボットが配備されて注目を集めていた。ロボット開発者のディオンは、自ら考え、感じる人工知能(AI)を独自開発し、スクラップ寸前の1台のロボットに密かにAIをインストールしようとする。しかし、その矢先にストリートギャングに誘拐されてしまい、AIをインストールして起動したロボットは、ギャングの下でチャッピーと名付けられ、ギャングとしての生き方を学び、成長していく。そして、ディオンのライバルでもある科学者ヴィンセントにチャッピーのことが知られ、その存在を危険視するヴィンセントによって、チャッピーは追い詰められていく。
チャッピー : 作品情報 - 映画.com
劇中ではコミカルに描かれてましたが、心をインストールされたチャッピーには「痛い」とか「痒い」といった感覚が存在しない。知識としてインプットはできても、金属製のボディーであるかぎり実感することはできないわけですよね。逆に言うと、身体の感覚なしで存在している意識がどういったものなのか、人間である僕らには想像できない。おそらくブロムカンプ監督はそういう疑問を十分承知した上で、あのラストを描いてると思うんですよ。
映画「チャッピー」を語る、ゆうきまさみインタビュー (3/3) - コミックナタリー Power Push
ニンジャ、ヨーランディ、アメリカの三人はスカウト(ロボット警官)達から命からがら逃げてきたところである計画を立てる。ヨーランディは次のようなことを言う。「あいつらスカウトが機械ならテレビみたいにリモコンがあればいいんじゃね?それでスイッチをオフにしよう」と。とても馬鹿な発想に見えるが、実際にそのようなリモコンは映画内にUSBのガードキーとして存在する。そしてこの台詞がこの映画の世界観と言っても過言ではない。
三人はスカウトの開発者ディオンを誘拐しリモコンを出せと脅迫する。ディオンはその時ちょうど自分が秘密に開発していた意識のプログラムが完成しそれを試そうと、廃棄処分のスカウトを持ち出すなどしていた。ディオンは「リモコンはない」と説明するので、三人は妥協してディオンが試そうとしていた意識ありのスカウトを自分の味方にしようとする。チャッピーは人工知能の参考書にもあるようにに子どもから成長するようになっている。(動物であればすりこみがあって最初に見たものを親のように思うが、チャッピーは最初から人間とは距離をとった。何故だろう。)ディオンは創造的なロボットを作ることを夢見ていたが、チャッピーはニンジャら三人に教育されることになる。
ニンジャの教育は単純だ。はじめに恐怖を与えて、次に何かの選択を促す。ニンジャは意図的にチャッピーをギャングの棲家に置き去りにする。ギャングはスカウトの様子がおかしく何かビビってる様子なので、普段の鬱憤を晴らそうとチャッピーに石を投げたり棒で殴ったり火炎瓶を投げたりする。なんとかそこを逃れるが、その途中で頭部に刺さったままになっているUSBのガードキーをヴィンセント(ヒュー・ジャックマン)に狙われ、腕を切断されてしまう。そこでもチャッピーは「怖い」としか言わない。
しかし、なぜ「怖い」と思うのだろう。「痛い」と言えないのは金属の部分に感覚がないからだと分かる。もし何か「怖い」ということがあるとしたら死ぬことだが、何故死ぬことを理解しているのだろう。人間であれば痛いや苦しいの延長に死があるような気がする、何か死の手前の状態があってそのときに怖いと思う。チャッピーにそのようなバッファーは存在するだろうか。これはヴィンセントの言うように頭のなかにチップがあるだけで空っぽだということではない。チャッピーの場合は自分の身体構造を理解しているのかどうか(視聴者側にも)不明だが電源が切れたら即死ぬ、電源に繋がるコードが切れたら即死ぬ、頭のCPUを壊されると死ぬとすると、それ以外は何も怖くないのではないか?
チャッピーはヴィンセントのムースが攻めて来たところで覚醒し(シンギュラリティ?)その後はチャッピーの世界が訪れる。表情等が読みにくいのでなぜ覚醒したのかはよく分からなかったのだが、計算速度が上がっていって単に時間的なものだろうか。覚醒後にはチャッピーは自分の身体を理解している、彼は平気でヨーランディの盾になり壁を壊して脱出口を作りながらムースの銃弾を背中でうける。意味もわからず「怖い」と言っていたチャッピーはもういない。それまでのチャッピーが人間臭すぎるのだ。チャッピーは自分が人間でないことを理解し、人間より高次の知能を手に入れ人間の生を操作できるようになる。ヴィンセントを殺して"I forgive you."と言い、死にかけのディオンの意識をロボットに移し再生させるのだ。神なのか。
Deon: Don't let people take away your potential Chappie.
ディオンは絵や詩を創らせるつもりだったのだが。
「ありえねえだろ」とか色々ツッコミどころがあることは理解しているつもりだが、それが論旨になってはもったいないだろう。
わたしは、かつてアメリカでインディアンたちが、鉄砲の驚くべき効果を見て、マスケット銃の弾丸を地面から拾い集め、それから口で大きな音を出しながら、手で弾丸を投げたが、誰をも殺さないのでまったく驚いていたというのを読んだことがある。
『言語起源論―旋律および音楽的模倣を論ず』P106 ルソー
9/10/2020
更新
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